FAS会計士ハヤマの仕事術

大手監査法人を経て、Big4 FASのバリュエーション部門で働く会計士が呟く仕事術 etc.

自社株買いによる株価上昇?

コロナショックにより多くの銘柄で株価が下落する中で、一部の日本企業は自社株買いで株価を上昇させているとの記事がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58414790T20C20A4EN1000/

 

自社株買いで市場に流通する株数が抑制される一方で企業価値は変わらないため、一株価値が高まり株価上昇につながります。

 

米国では一般的な手法で、昨年までの株価上昇に一役買っていました。

ただしコロナショックによる需要減退で手元キャッシュが減っていることから、今後自社株買いは減っていくと見込まれます。

また政府の資金繰り支援を受ける場合には、自社株買いの実施を禁じられています。

 

海外で自社株買いが減っていることもあり、日本企業が自社株買いを実施すると目立つため投資家の人気を呼んでいるようです。

ただし日本企業の場合は新規投資を手控えることで蓄積された内部留保が自社株買いの源泉であることも考えられるため、見極めが大切になります。

本来は自社株買いにより投資家に還元する以上の儲けを、新規の事業投資により達成すべきです。

 

この見極めとして、ROIC分析が有用です。

分母に調達サイド(有利子負債+株主資本)を用いることで、余剰キャッシュを含めた投下資本がどの程度利益を生んでいるのかをチェックすることができます。

運用サイド(運転資本+事業固定資産)を分母にする方法もありますが、この場合だと余剰キャッシュが投下資本に含まれず、内部留保によるムダを把握できなくなってしまいます。

 

例えば下記の場合。

・NOPAT = 200

・投下資本(調達サイド)= 運転資本 400 + 事業固定資産 400 = 800 → ROIC 25%

・投下資本(調達サイド)= 有利子負債 400 + 株主資本 600 = 1,000 → ROIC 20%

5%の差の要因は、余剰キャッシュ200の存在です。

この会社の実力値はROIC 20%ですが、新規の事業投資で既存ビジネスと同等に儲けることができればROICは25%となり企業価値の上昇につながります。

 

事業投資をサボった結果の内部留保による自社株買いで株価が上がったとしても、短期で戻ってしまう可能性がありそうです。