FAS会計士ハヤマの仕事術

大手監査法人を経て、Big4 FASのバリュエーション部門で働く会計士が呟く仕事術 etc.

バリュエーションにおけるシナジーの取扱い実務

経営戦略の話の中でよく出てくる「シナジー」という言葉。

"A社とB社が経営統合することで販売網の拡大、コスト削減といった「シナジー」が見込まれる"

プレスリリースでよく目にするコメントだと思います。

 

今回は「シナジー」がM&Aや会計のバリュエーションでどのように取り扱われているのかを書きとめてみます。

 

2つのシナジー

シナジーには2つの種類が存在します。

「市場参加者シナジー」と「取得者固有シナジー」です。

チャートにするとこんな感じ。

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上記はM&Aにおいて、取得者(買手)から見た買収対象会社の純資産を算定フェーズ毎に示しています。

 Book Value:BS価額

 Valuation:専門家等による価値算定結果価額(DCF法、マルチプル法、純資産法など)

 Purchase Price:クロージングにて実際に支払われた価額

 

市場参加者シナジーはBook ValueとValuationの差額です。

取得者に限らず、対象会社を取得しようとする会社であれば誰でも獲得できるシナジーです。

例えば取得者・対象会社がともに運送会社であれば物流拠点が重複しているだろうから、統合することで固定費を削減できる等のシナジーが期待できます。

 

取得者固有シナジーはValuationとPurchase Priceの差額です。

特定の取得者が対象会社を獲得したときのみ発生が期待されるシナジーです。

例えば製造業にて取得者が業界唯一取り扱っている原料があり、対象会社がその素材で競争力のある製品を作成できることで更なる売上アップが可能、等です。

 

取扱い実務

市場参加者シナジーと取得者固有シナジーはバリュエーション場面により様々な取扱いがなされます。

 

M&Aの価格決定

M&Aにて買手と売手が価格交渉する場面です。

 市場参加者シナジー⇒価格交渉のメインポイントとなる(買手・売手ともに把握している内容であるため)

 取得者固有シナジー⇒買手としてはPurchase Priceになるべく含めず、M&A後に自社の利益として確保しておきたい

 

②PPAの無形資産計算

M&A後に実施されるPPAにて無形資産として切り出すかのれんに残すかを検討する場面です。

 市場参加者シナジー⇒無形資産として切り出す。無形資産は公正価値(市場参加者目線の価値)で計算することになるため、当然に市場参加者シナジーが含まれる。例えば市場の伸びに比例して既存顧客からの売上アップが見込まれるなら、それは無形資産(顧客関係)として切り出される。

 取得者固有シナジー⇒のれんに残す。通常の市場参加者には利益化できないため。

 

③減損テスト

減損テストでは回収可能価額の基礎として公正価値と使用価値という考え方があります。

シナジーはそれぞれの価値に紐づきます。

 市場参加者シナジー⇒公正価値に含まれます。

 取得者固有シナジー⇒使用価値に含まれます。取得者が経営するからこそ、獲得可能な利益となります。

 

どちらのシナジーに着目すべきか

シナジーといっても、誰でも獲得できるものもあれば特定の会社しか獲得できないものもあります。

得意げに「わが社と組めばこんなシナジーがあります」という人・会社がいたら、そのシナジーは取得者固有と市場参加者どちらを指しているのか考えるべきでしょう。

市場参加者は買収価額に盛り込まれている可能性が高い一方、取得者固有は買収後の価値向上として発揮されるので、投資家が着目すべきは後者の取得者固有シナジーになると思います。