売手に利益相反のある株式譲渡
週末、価格決めが厄介な株式譲渡案件に遭遇しました。
売手にとって利益相反取引になるものです。
立場によって計画の見立てが変わってくることから、バリュエーションの際は慎重になる必要があります。
株式譲渡スキーム
スキーム図はこちら。
Clientは売手の1社であるA社です。
共同出資者であるB社とともに、Targetの100%持分をA社の兄弟会社であるC社に売却することを検討しています。
TargetはもともとA社の社内システム開発部門をスピンアウトさせた会社であり、売上の大部分はA社に対するものです。
どこが利益相反取引なのか
A社には2つの立場があります。
①自社の収益を優先すべき個社としての立場
②P社連結に属するグループ会社としての立場
①の場合、A社はTargetを高い価格で売却すべきです。
自社の利益を優先するわかりやすい判断です。
B社も同じ思いのはずですからスムーズに合意が取れるでしょう。(買手に受け入れられるかどうかは別ですが)
②の場合、Targetを低い価格で売却すべきです。
A社とC社は兄弟会社であり同一の連結グループに属しています。
連結ベースで考えれば、税負担を除いてA社がTargetをいくらで売ろうと基本的に収益への影響はありません。(A社で生じる売却益の水準により税負担が変わります。)
一方でB社は外部ですから、C社グループとしてはTargetを安く買い取りたい。
売却価格はA社とB社で合わせる必要があるため、結果的にA社はTargetを安く売却すべきとなります。
TargetのバリュエーションはA社の決め次第となります。
Targetの大口顧客はA社であるため、A社の需要次第でTargetの事業計画(将来キャッシュフロー)が決まり、バリュエーションに落とし込まれます。
今回はおそらく②の方向で話が進みます。
A社はP社に支配されていますから、連結の観点で最適な売却価格を目指すのは当然です。
この場合、Targetの事業計画は保守的に作られる可能性が高いです。
A社が発注を抑えると言えば、Targetの将来キャッシュフローとともに価値は小さくなります。
ただしバリュエーターとしてはTargetの過年度実績やA社の将来計画との整合性をみつつ、慎重に妥当性を判断する必要がありますね。
税務・法務の留意点
税務上は売却価格の妥当性が問題となります。
売却価格が時価より低い場合、寄付金と認定されてしまう可能性があります。
なお売却益を抑えたい場合は、株式譲渡前にTargetから株主に配当しておく手法もあります。
TargetはA社の関連法人株式等に該当することから(持分比率1/3以上)、受取配当で受け取った額は全額益金不算入となります。
一方で売却益が生じた場合は他の所得と合算されて額に実効税率を乗じた税金を支払う必要があります。
税務上でも価格の妥当性は重要なポイントとなります。
法務上で要する手続きはA社にとってのTarget株式の重要性によります。
株式の額がA社の総資産の1/5以下であれば取締役会決議で足ります。
1/5を超える場合は株主総会決議が必要となります。